軽快な演奏には欠かせないスタッカートのタンギング
小気味いい雰囲気や軽やかな印象を与えるスタッカートは、より魅力的な演奏をするために必要不可欠です。
サックスはリード楽器であるためタンギングが強めに聞こえてしまいます。
そのため、タンギングのコントロール能力はとても重要です。
スタッカートタンギングが苦手な人は、主にこんなことに悩んでいると思います。
- 音の立ち上がりがハッキリ吹けない
- 音の切れ目がハッキリしない
- タンギングが耳を刺すような痛い音になってしまう
- ピアノ・ピアニッシモでスタッカートが吹けない
これらを克服し、かっこいいスタッカートが吹けるようになる方法を解説しようと思います。
サックスのタンギングが強くなりすぎる理由
スタッカートを演奏する時に一番注意したいのは、先にも述べたように金管楽器などに比べサックスのタンギングは強めに聞こえるということです。
その理由を説明します。
金管楽器は間接的に振動を止める
金管楽器の音の源は唇です。
唇は口の外で震えているので、タンギングをする時は口の中から出る息を舌で止めます。
息が止まると唇の振動が止まるので、そこで音の切れ目ができ、タンギングとなります。
つまり金管楽器は間接的に振動を止めているのです。
そのため、タンギングは基本的に柔らかめになります。
サックスは直接的に振動を止める
変わってサックスの音の源はリードです。
リードは口の中で震えているので、タンギングをするときは舌がリードに触れることで振動を止めるので、そこで音の切れ目ができ、タンギングになります。
つまりサックスは直接的に振動を止めているのです。
そのため、タンギングは基本的に硬めになります。
スタッカートを吹くときは、音の出だしをハッキリさせるために、強めにタンギングしようとします。
金管楽器はそれでちょうどいいのですが、サックスは基本的にタンギングが硬めに聞こえるので、スタッカートを吹くときにより強くなってしまい、耳が痛くなるほど強いタンギングになってしますのです。
強めに聞こえるサックスのタンギングをコントロールするには?
サックスのタンギングは基本的に硬くなってしまうので、やわらかいタンギングを習得するのが、タンギングのコントロール方法を高める一番の上達方法です。
やわらかいタンギングができるようになるには、レガートタンギングをマスターすることです。
スタッカートタンギングを習得する
かっこいいスタッカートを吹くために習得する要素は3つです。
- 音に厚みがある
- 音の立ち上がりがハッキリしている
- 音の切れ目がハッキリしている
一つ一つ解説していきます。
1.音に厚みがあるタンギング
スタッカートでタンギングしたときに音に厚みがあること。
これがスタッカートタンギングの一番重要な要素です。
冒頭であげたタンギングの悩みの中に、
「タンギングの音が耳を刺すような痛い音になってしまう」
というものがありました。
これは音に厚みがないことが一番の原因です。
口先で吹くと音の厚みが無くなる
吹奏楽器全般にいえることなのですが、日本人はどうしても口先で楽器を吹いてしまいます。
これは日本語の発声方法と欧米諸国の発声方法の違いの問題です。
管楽器は元々ドイツやフランス、アメリカなどの欧米諸国で発明され、発展してきた楽器です。
そのため、楽器の構造や音も欧米諸国の発音や発声を基準に作られています。
たとえば英語を日本人がしゃべるのとアメリカ人がしゃべるのとでは、声の質から全然違います。
日本人が「Hi!」と英語で発音すると平べったく高い声で「ハイ!」と発音すると思います。
アメリカ人が発音すると太く低い声で「ハァイ!」と発音します。
こういう違いが楽器を吹くときにも必然的に現れてくるのです。
日本語は喉より上で発声する言語なので、日本人は口を使って音を出そうとするとほぼ必ず喉より上で何とかしようとします。
そのため、口先だけで演奏してしまい、音の厚みが無くなってしまうのです。
音の厚みをつけるためには、欧米人の様な発声を意識して吹くことが大事です。
具体的には腹直筋を特に意識して息圧をかけます。
腹直筋腹式呼吸で息圧をしっかりかける
サックスで主に使う腹式呼吸には2種類あります。
- 腹直筋腹式呼吸(上部腹式呼吸)
- 腹直筋(おへその少し上の筋肉)を使って、速い息を出す呼吸法
- 丹田腹式呼吸(下部腹式呼吸)
- 丹田(おへその少し下の筋肉)を使って、遅い息を出す呼吸法
スタッカートタンギング瞬間的に息圧をしっかりかける必要があるので、主に「1.腹直筋腹式呼吸」を使います。
『主に』と書いたのは、この2種類の呼吸法は常にブレンドして使うからです。
スタッカートタンギングの場合は『腹直筋 9:丹田 1』くらいの感じです。
腹式呼吸の詳しい説明はここでは省きますが、腹直筋腹式呼吸が上手く出来ると、息が空気砲のように出るようになります。
スタッカートを吹く時に必ずこの息圧を使って吹くと、音圧がしっかりとかかった音が出るようになります。
また、この息圧がかかった音は『2.音の立ち上がりがハッキリしている』にも重要です。
2.音の立ち上がりがハッキリしているタンギング
音の立ち上がりをハッキリさせるには、腹直筋腹式呼吸ともうひとつ重要な要素があります。
それはタンギングの硬さです。
スタッカートを吹く時は、少し硬めのタンギングの方がカッコよく聞こえます。
硬いタンギングの吹き方
レガートタンギングの解説の中でも説明しましたが、タンギングをつく時の舌の位置が奥になるとタンギングが硬めになります。
レガートタンギングの時は、舌の先端から1cmくらいのところでつきます。
スタッカートの時は先端から1.4cmくらいのところでつくのがちょうどよくなります。
もちろん自分の音を聞きながら、いろいろな位置を試してみてください。
スタッカートタンギングはリードに触る程度で十分
腹直筋腹式呼吸で息を入れると、音は自然とハッキリします。
また、舌の位置を奥にすることでタンギングは硬くなります。
そのため、わざわざ舌を強くリードに当てる必要はありません。
リードに触る程度で十分です。
舌を強くリードに当てると、振動を殺すばかりか余計に硬い音になってしまうので、耳が痛い音になってしまいます。
3.音の切れ目がハッキリしているタンギング
スタッカートは音の切れ目も重要です。
音と音の隙間が軽快さや軽やかな印象を与えるからです。
腹直筋腹式呼吸は瞬発力のある息が出るので、リードの振動は自然とスパッと切れますが、そのまま何もしないとマウスピースや管体に音の振動が残ってしまうので少し余韻が残ってしまいます。
音の切れ目をハッキリさせるにはリードを舌で止める
音を止めるときにリードを舌に押しつけると、音がハッキリ切れるようになります。
舌の押さえつけ方は、タンギングをする時に舌をリードにつけるのと同じようにつけ、そのままつけっぱなしにします。
舌で音を止めている時も息圧はかけたままにする
管楽器を吹く時はブレスをとる時以外は常に息圧をかけっぱなしにします。
そうしないと、次の音を吹く時にまたお腹から準備を始めなければならなくなり必ず出遅れるからです。
同様に、スタッカートの音と音の間も息圧をかけっぱなしにします。
舌に力は入れない
スタッカートタンギングをする時は、りきんでしまう方が多いですが、舌にはなるべくリラックスした状態になっているようにします。
理由は2つあります。
- 人間の身体は力が入っていると速く動かない
- 力が入っていると音色まで硬く、貧相になってしまう
舌が速く動かないということは、タンギングが速くできないということになってしまいます。
また、楽器を吹いている時は、楽器だけでなく身体も振動しています。
力が入っているとこの振動を殺してしまうので、力をかけるのは必要最低限になっているのが理想です。
番外編:ピアノ・ピアニッシモのスタッカートタンギング
ピアノやピアニッシモなどの弱い音をスタッカートで吹くのは難しいと思いますが、先ほど紹介した2種類の腹式呼吸をマスターすれば、できるようになります。
- 腹直筋腹式呼吸(上部腹式呼吸)
- 腹直筋(おへその少し上の筋肉)を使って、速い息を出す呼吸法
- 丹田腹式呼吸(下部腹式呼吸)
- 丹田(おへその少し下の筋肉)を使って、遅い息を出す呼吸法
先ほど、通常のスタッカートタンギングのブレンド比は『腹直筋 9:丹田 1』くらいだと言いました。
スタッカートに限らず、ピアノやピアニッシモを吹く場合は丹田腹式呼吸の割合を増やします。
スタッカートは通常よりも腹直筋の比率が高いので、ピアニッシモを吹くときでも『腹直筋 6:丹田 4』くらいで吹きます。
これくらいのブレンド比で吹くと、ピアノやピアニッシモでも立ち上がりのいいスタッカートを吹くことができます。
まとめとスタッカートタンギングの練習方法
スタッカートを上手く演奏する秘訣は5つです。
- 腹直筋腹式呼吸を使って息圧をかける
- 舌の少し奥でタンギングをつく
- 音の切るときに舌をつける
- 音の切れ目でも息圧はかけっぱなしにする
- リラックスしてタンギングする
この中で一番重要なのは腹直筋腹式呼吸です。
腹直筋腹式呼吸ができればスタッカートはうまく吹けます。
スタッカートタンギングの練習はこの順番でやるといいでしょう。
- メトロノームを♩=100で鳴らす
- 舌を使わずに息だけでスタッカートの四分音符を吹く
- 次に舌をつけてスタッカートの四分音符を吹く
- 「2.」「3.」を1小説ごとに切り替えて吹く
特に「2.舌を使わずに息だけでスタッカートの四分音符を吹く」が難しいと思いますが、慣れるまで何度も繰り返しやってください。
ある程度できるようになってきてから、「3.次に舌をつけてスタッカートの四分音符を吹く」や「4.1小節ごとに切り替えて吹く」に進むといいと思います。
練習してみてください。